「90分サイクル説」は都市伝説だった?
睡眠科学者が語るレム・ノンレム周期の本当の話
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「90分サイクル」が万人に当てはまらない理由と、実際の周期のばらつきがわかる
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レム・ノンレム睡眠のサイクルが年齢・個人差・睡眠負債によってどう変わるかがわかる
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「何サイクル目で起きるか」より大切な、実践的な起床タイミングの考え方が身につく
この記事の目次
前回、「二度寝を防ぐ方法」の記事で起床時刻を毎日揃えるのが良いとお伝えしました。では実のところ何時間寝て、何時に起きればいいのか、どう考えればいいのか分かりますか?
それらを考えるときに「90分のサイクルに合わせて起きると、目覚めがスッキリする」——そんな話、一度は聞いたことがありませんか?この通説は、アラームアプリにも「睡眠サイクル計算機能」がついているくらい、広く信じられています。
でも実際のところ、この「90分」という数字は科学的にどこまで正確なのでしょうか?睡眠ポリグラフ(PSG)と呼ばれる脳波測定データをもとに、この通説を検証してみます。
そもそも「90分サイクル」はどこから来たのか
この話の起点は、1950年代にさかのぼります。シカゴ大学のナサニエル・クライトマンとその学生ユージン・アセリンスキーがREM睡眠(急速眼球運動睡眠)を発見し、その後の研究でノンレム睡眠とレム睡眠が交互に繰り返されるリズムが観察されました。
その際に「おおむね90分ごとにサイクルが切り替わる」という傾向が報告され、それがいつしか「90分ぴったりに目覚めると良い」という形で一人歩きするようになったのです。
実際のサイクルは何分? 脳波データが示す個人差
睡眠ポリグラフ研究を見ると、一晩の睡眠サイクルの長さには「70〜120分」という幅があることが示されています。平均すると確かに90分前後になりますが、これはあくまで集団の平均値です。
ある研究では、健康な成人でもサイクル長が個人によって大きく異なり、同じ人でも一晩の中でサイクルの長さが変わることが報告されています。前半の睡眠はノンレム深睡眠(徐波睡眠)が長く、後半になるほどレム睡眠の割合が増えていくという傾向もあります。
つまり「1サイクル=90分」という等幅の区切りで眠っているわけではないのです。

年齢によってサイクルはどう変わる?
個人差だけでなく、年齢もサイクルの構成に大きく影響します。
新生児はレム睡眠が全睡眠の約50%を占め、睡眠サイクルは40〜60分程度と非常に短いことが知られています。成人になるにつれてサイクルは長くなり、レム睡眠の比率は20〜25%程度に落ち着きます。さらに高齢になると、深いノンレム睡眠(徐波睡眠)が減少し、サイクルの構成そのものが変化していきます。
「90分」という数字が最もあてはまりやすいのは、20〜40代の成人という前提条件があるわけです。自分の年代や体質を無視して「90分×4サイクル=6時間で起きれば良い」と計算しても、うまくいかないのはこれが理由のひとつかもしれません。
睡眠負債と前夜の疲れ具合も周期を変える
睡眠のサイクル構成は、その日の疲労度や睡眠負債(睡眠不足の蓄積)によっても変化します。

睡眠不足が続いた後の「回復睡眠」では、深いノンレム睡眠(徐波睡眠)が前半に集中して現れる「リバウンド」が起きることが知られています。脳と体が「まず深い回復を優先する」という反応です。この状態のとき、前半のサイクルは通常より長くノンレム優位になり、「90分で浅くなるはず」というタイミングがずれることになります。
つまり、疲れているときほど「90分計算」は狂いやすいのです。
では、いつ起きれば「目覚めが良い」のか
「90分サイクルに乗れば目覚めが良い」という理屈は、「レム睡眠や浅いノンレム睡眠のタイミングで起きると覚醒しやすい」という考えに基づいています。これ自体は一定の根拠があります。
問題は「そのタイミングを外から正確に計れるか」です。
スマートウォッチやスマートバンドの睡眠トラッキング機能は、体動や心拍数から睡眠段階を推定しています。ただし、脳波(ポリグラフ)と比較した検証研究では、特にノンレム睡眠の段階分類の精度にばらつきがあることが指摘されています。「アプリが浅い睡眠と判定したから起きた」としても、実際に浅い睡眠かどうかは必ずしも一致しないわけです。
現時点でより確実性が高いとされるアプローチは、以下のようなものです。
- 起床時刻を一定に保ち、体内時計のリズムを安定させる
- 「目が自然に覚めやすい時間帯」を数日観察して把握する
- 総睡眠時間を削って「サイクル計算」するより、必要な睡眠量を確保することを優先する

まとめ
- 「90分サイクル」は集団の平均値であり、個人差は70〜120分と幅が広い
- 年齢・疲労度・睡眠負債によってサイクルの長さと構成は変化する
- 前半の睡眠は深いノンレム優位、後半はレム優位という「非対称性」がある
- スマートデバイスの睡眠段階推定は参考程度にとどめるのが現実的
- サイクル計算より「総睡眠時間の確保」と「起床時刻の固定」が実践的な優先事項
今夜からできることがあるとすれば、皆さんの朝のルーティンを整え、毎朝同じ時刻に起きる習慣を2週間続けてみることです。それだけで、体内時計が整って自然な覚醒タイミングが安定してくるという研究もあります。
引用・参考文献
- レム睡眠の発見と睡眠サイクルの初期記述 → Aserinsky & Kleitman (1953) Science
- 健康成人における睡眠サイクル長の個人差(70〜120分のばらつき)→ Feinberg & Floyd (1979) Sleep
- 睡眠負債後の徐波睡眠リバウンドに関する知見 → Borbély et al. (2016) Journal of Sleep Research(2プロセスモデルの改訂レビュー)
- 加齢による徐波睡眠の減少とサイクル構成の変化 → Ohayon et al. (2004) Sleep(メタ分析)
- 消費者向けウェアラブルデバイスの睡眠ステージ推定精度の検証 → de Zambotti et al. (2019) Sleep Medicine Reviews
⚠️ この記事の内容は情報提供を目的としており、医療行為・診断・治療の代替となるものではありません。健康上の問題がある場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。
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